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大阪高等裁判所 昭和59年(行コ)10号 判決

控訴人 大谷光紹 ほか一名

被控訴人 京都府知事

代理人 長島裕 中島重幸 井口博 浅利安弘 松原住男

被控訴人・参加人 本願寺

主文

控訴人らの控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。本件を京都地方裁判所へ差戻す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人、参加人ら代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決八枚目裏三行目の「加談」の前に「被控訴人京都府知事の認証を要する規則変更につき同意権を有する」を加える。)であるから、これを引用する。

(控訴人大谷光紹の主張)

一  本山寺法の廃止は次の理由により無効である、すなわち、本山寺法は、昭和五六年五月開催の宗議会の議決に基づく、同年六月一一日施行の真宗大谷派宗憲附則六項により廃止されたものであるが、右宗議会は訴外五辻実誠が宗務総長として開催された。しかしながら、五辻実誠は原判決別紙二の一で主張したように、京都地方裁判所の仮処分決定に違反して昭和五五年六月に開催された宗議会において宗務総長に推挙され就任したものであつて、右推挙決議は無効のものである。したがつて五辻は宗務総長として宗議会の招集権限はなく、昭和五六年五月開催の宗議会は無効、不存在であり、同宗議会において宗憲を変更し、本山寺法を廃止する規定を設け施行しても、法的に何らの効力が生ずるものではない。

二  被控訴人、参加人らは、管長代務者が招集したから招集手続に瑕疵はないと主張するけれども、内局としては、真宗大谷派(以下大谷派という。)の管長を廃止する旨の変更、管長が兼職する本願寺住職の地位を廃止する旨の変更等の議案を用意していたのにかかわらず、宗議会招集の上申をするについてその説明をしなかつたものである。したがつて、一方的に、管長が招集を拒絶したことをもつて職務をなさないとすることは信義則に違反するものであり、管長代務者選任の要件を充足しない。

三  また、本山寺法の変更には、昭和四一年七月一日条例第一四三号による改正の同法(<証拠略>)五七条に管長の承認と加談会の同意が定められていたが、昭和五五年一二月八日条例第二三〇条による改正の同法(<証拠略>)五七条には管長の承認が削除されている。しかし、右削除について、管長の承認及び加談会の同意はなかつたから、結局、本山寺法の廃止について管長の承認及び加談会の同意が必要であるところ、そのいずれも手続が履践されていないものであつて、その効力は生じていない。

四  真宗大谷派の僧籍は法嗣の地位の要件ではない。本山寺法一三条によると、住職後継者が得度式を受ければ法嗣の地位に就くものである。そして、得度式とは、正確には大谷派の僧侶となる儀式ではなく、浄土真宗(一〇派)の僧侶となる儀式であり、僧籍簿に登録する行為とは別個の行為である。したがつて、僧籍削除したことをもつて法嗣の地位にないとはいえない。さらに僧籍削除の権限は、世俗的機関である宗務総長にはなく、宗務総長による僧籍削除はその効力がないものというべきである。

(控訴人大谷光暢の主張)

一  昭和五六年五月開催の定期宗議会は、適法な招集権者の招集により開催されたものではなく、議決は不存在であり、同年一一月施行真宗大谷派宗憲は無効である。すなわち、昭和五六年度定期宗議会招集に関する管長大谷光暢宛の上申書は、内局より同年四月二四日午後四時一五分頃内事部へ届けられ、しかも翌二五日午前一〇時までに允裁してほしい旨の付箋が付けられていた。従来より宗議会招集を求める上申書には議案が記載されており、管長は記載された議案の審議を求めるため宗議会を招集していたのである。しかるに、前記上申書には何ら議案の記載はなく、内事部長より総務部長にこの点の確認がなされたが、「予算、決算の審議をすることは決定しているが、その余のことについてはいえない。」との返答であつた。昭和五〇年度の宗議会招集の上申時にも議案の上申がなく、管長側と内局側が協議の結果今後議案を必ず上申するという了解が得られた前例もあり、管長は内局に対し議案の上申を強く求めていた。しかるに、内局は右上申をしないばかりか、上申の前日である二三日に参与会員に打電するとともに、同日の速達便で、「管長代務者設置に関する件」を議題として、参与会の招集通知をし、かつ、同月二七日常務員会、参与会が開催され、訴外竹内良恵が管長代務者に選任され、同人により宗議会の招集がなされたものである。

当時管長は内局が允裁を求めた案件については、内容的に問題のあるものは修正を求め、付箋をつけたうえで允裁し、問題のないものは可及的すみやかに允裁しており、管長業務を延滞したことはない。したがつて、管長代務者設置の要件を欠き、竹内良恵は管長代務者の地位になく、同人の招集による宗議会は招集権者によるものではないから不存在であり、議決は無効である。すると、右宗議会で議決された現行宗憲は無効であり、同付則による本山寺法の廃止も効力がない。

二  仮に、本山寺法が廃止されたとしても、現行宗憲付則九項によると、「この宗憲施行の際、現に在職する宗務総長、参務、審問院長その他の宗務役員並びに地位、身分及び称号を有するものであつてこの宗憲に抵触しないものについては、この宗憲施行のため、当然その地位、身分、及び称号を失わない。」とされており、控訴人大谷光暢が、右宗憲施行時参加人本願寺の住職の地位にあり、その地位は右宗憲に抵触するものではないから、控訴人大谷光暢は、現在も右住職の地位を失つていない。

(被控訴人京都府の主張)

一  控訴人大谷光紹は、昭和五六年五月開催の宗議会は招集権限のない五辻実誠(以下五辻という。)が宗務総長として招集したものであるから、不存在、無効のものである旨主張するけれども、宗憲上、宗議会の招集権者は管長(管長代務者)であつて、宗務総長ではない。

二  五辻は、昭和五五年六月開催の宗議会において宗務総長に推挙されたものであるが、管長大谷光暢は、同年一一月八日五辻を宗務総長に任命し、同月九日五辻らとの間で成立した和解により右宗議会における議決を瑕疵なく有効なものとして承認し、同年一一月一九日開催の臨時宗議会を招集し、同宗議会においても同年六月開催の宗議会の議決を瑕疵なく有効なものとして承認する旨の決議をし、同年一一月二二日京都簡易裁判所において、申立人五辻ほか三名と相手方大谷光暢ほか二名間で起訴前の和解が成立している。したがつて、大谷光暢は任命者として五辻を宗務総長に任命したのであり、他方控訴人大谷光暢が管長として招集した臨時宗議会は同年六月の宗議会の決議と同一内容の決議を改めて行つたもので、重ねて五辻を宗務総長に推挙するものであるから、仮に同年六月の宗議会の決議が不存在であるとしても、臨時宗議会の決議により前記宗務総長任命の前提条件を充足させたものである。

三  そして、管長大谷光暢は、宗憲一九条に規定する義務である定期宗議会を招集しなかつたため、管長推戴条例八条に基づいて管長代務者に就任した竹内良恵が昭和五六年五月の宗議会を招集したものである。

四  大谷派において宗憲は「最高規則」(宗憲二条の二)とされており、本山寺法は宗憲の下位法であることは明らかであるから、本山寺法の変更手続によらず、宗憲により直接本山寺法を廃止することは、もとより適法である。

(参加人の主張)

一  五辻が有効に宗務総長に推挙され、管長から任命されたことは、被控訴人京都府が主張するとおりである。なお、臨時宗議会の管長の招集状への副書は、招集手続における附随的事項であり、極めて形式的な瑕疵にすぎないから招集手続の効力に影響を及ぼすものではない。

二  昭和五六年五月開催の宗議会は、管長代務者竹内良恵により招集されたものであるが、管長推戴条例八条によると、「管長が正当な事由なくその職務を行わないときは管長代務者を置く」旨定められていた。定期宗議会は、毎年一回招集されるべきものと定められ(旧宗憲二三条)、会計年度(毎年七月一日から翌年六月末日まで)の関係から、年度内に予算を成立させるため、毎年、年度末に開催されてきた。そこで同年四月四日、五辻宗務総長は、被控訴人大谷光暢の代理人内藤頼博弁護士を通じて、定期宗議会招集の上申を行つた(右上申は、和解以後とられてきた方法である。)。ところが、大谷管長は、議案を明示することを要求し、同月二二日内藤弁護士を通じて招集を拒否する旨を通知してきた。定期宗議会による予算を議決できないことになれば、末寺からの宗費等の上納金によつてのみ運営され、自身の固有財産をもたない大谷派としては、七月以降、大谷派はもちろん、本願寺の宗教上の行事を含む一切の運営が不可能となるものであつて、管長の招集の拒否は極めて重大な義務違反であり、これがため、宗議会の開催の遅延が許されない緊急事態であつた。そこで、五辻宗務総長は、前記管長推戴条例に基づき、管長代務者設置のための参与会、常務員会を同月二三日招集し、念のため再度大谷管長に対して定期宗議会招集の上申を翌二四日にしたが、同人はこれも拒否したため、同月二七日参与会、常務員会を開催した結果、竹内良恵が管長代務者に選任されたものである。したがつて、昭和五六年五月の定期宗議会は適法に開催されたものである。

三  本山寺法は、昭和五五年一一月一九日改正され、同年一二月八日施行されたが、右改正につき、同年一一月九日管長の承認を得、同月一八日加談会の同意を得ており、昭和五六年六月一一日施行の宗憲改正にともない、本山寺法の上位法である宗憲の改正の附則によつて廃止されることとなつたものであり、かつ、廃止について同年五月二〇日加談会の同意を得ている。

四  得度式は、真宗十派においてその内容が異なり、各派の僧侶となる儀式であつて、抽象的な浄土真宗の僧侶というものは存在しない。真宗十派は共通に親鸞を宗祖としていることから協議により転派について得度式を省略しているに過ぎない。控訴人大谷光紹は、東京本願寺を大谷派から離脱されるについて、大谷派とは「信心が異なる」ことを理由としていたのであり、大谷派の根本道場である参加人本願寺の宗教上の地位を有するということは、論理的に成立しない。

(証拠関係)

<略>

理由

当裁判所も、控訴人らの本件訴を却下すべきものと判断するが、その理由は次に付加、訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決九枚目裏七行目の「原告大谷光暢」の前に「<証拠略>によると、」を加える。

二  同一〇枚目表一〇行目、一一行目の「いうまでもないが、」を「当事者間に争いがないところ、」と改め、同裏四行目の「入つていない」の次に「(同八条)」を加え、同五行目の「しないことは、いうまでもない。」を「する規定もない。」と改める。

三  同一一枚目表二行目から一〇行目までを次のとおり改める。

控訴人らは、旧規則には、規則変更の同意権のある加談総代の任命権が住職にあることを挙げ、そのことについては当事者間に争いがないけれども、<証拠略>によると、右任命権は、いずれも宗務総長の推挙した者を任命する(旧規則一六条二項、一九条二項)といつた形式的なものであつて、実質的な権限は宗務総長にあり、住職の任命は象徴的なものと解するのが相当であり、加談会、総代の規則変更の同意権が世俗的なものであるとしても、そのことから住職に世俗的事項についても権限があると解することはできないし、その他、加談会への諮問(旧規則一七条)、加談会招集についての宗務総長へ命令(同一八条)等の権限についても、前記認定の住職の地位や旧規則改正の経緯に照らし、その対象ないし目的は宗教上の事項に限るものと解するのが相当であり、控訴人らの主張を裏付けるものとはなし難い。

四  同一一枚目裏二行目の「廃止し」の次に「<証拠略>により認める。)」を加える。

五  同一二枚目裏四行目から一一行目までを削除し、同部分に次の認定、説示を加える。

六  控訴人らは、本山寺法廃止の効力を争うので判断する。

(控訴人大谷光紹の主張について)

1  五辻宗務総長の地位

控訴人大谷光紹主張の原判決別紙二の一(2)の〈1〉ないし〈4〉の事実は当事者間に争いがない。右事実によると、昭和五五年六月開催の宗議会は京都地方裁判所の仮処分の違反するものであるから、右宗議会における五辻実誠を宗務総長に推挙する決議は無効なものといわなければならない。しかしながら、右〈3〉、〈4〉の事実によると、同年一一月一九日開催の臨時宗議会において、さきの宗議会の決議と同一内容の決議を改めて行つたものというべきで、五辻は有効に宗務総長に推挙され、大谷管長が右推挙に先き立ち任命した前提条件が充足されたというべきである。もつとも、旧宗憲上宗議会の招集については、内局の補佐と同意及び招集の宗達には宗務総長らの副書が必要であることは当事者に争いがないけれども、これらの手続は、招集手続における附随的事項であるうえ、<証拠略>によると、宗議会の議員定数は六五名以内(旧宗憲二〇条)であるところ、右臨時宗議会は議員六四名が出席して開催され、右手続の瑕疵について何らの異議もなかつたことが認められるから、宗議会開催の効力に影響を及ぼすものではないと解すべきである。

2  昭和五六年五月開催の宗議会の効力

前掲<証拠略>によると次の事実が認められる。すなわち、五辻宗務総長は、昭和五六年度の定期宗議会開催について、同年四月四日控訴人大谷光暢の代理人内藤頼博弁護士を通じ招集方の上申を行つたところ、同控訴人は招集を拒否する旨通知してきた。定期宗議会は、毎年一回招集されるべきものと定められ(旧宗憲二三条)、大谷派の予算を議決する重要なものであつて、会計年度(毎年七月一日から翌年六月末日まで)の関係から六月中には開催しなければならないものであるため、五辻宗務総長は右の緊急事態に対処するため、同月二三日参与会、常務員会を招集し、念のため再度翌二四日大谷管長に招集方の上申をしたがこれも拒否された。そこで、五辻宗務総長は、大谷管長の右拒集の拒否は管長推戴条例八条所定の「正当の事由なくしてその職務を行わないとき」に該当するものと判断し、同月二七日参与会、常務員会を開催し、竹内良恵が管長代務者に選任され(管長推戴条例八条)、同人により、同年五月定期宗議会が招集され開催された。以上の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

控訴人大谷光紹は、内局は宗議会招集の上申をするについて議案の説明をせずに、大谷管長の招集拒否を義務違反とすることは信義則違反である旨主張するけれども、<証拠略>によると、定期宗議会では議員提案がなされることもあり、従来より議案を添えて上申したことはないことが認められ、また前記認定のとおり定期宗議会は大谷派にとつて必要不可欠のものであるから、議案の説明がないことをもつて招集を拒否する理由とはなし難く、内局のとつた措置に違法な点はないというべきである。

3  本山寺法変更手続

<証拠略>によると、本山寺法五七条には、控訴人大谷光紹主張のとおりの条例変更手続が定められていることが認められる。しかしながら<証拠略>によると、宗憲は大谷派における最高規則(旧宗憲二条の二)であり、本山寺法はその下位法であることが明らかであるから、宗憲により本山寺法を廃止した場合には、同法の変更手続規定を適用する余地はないと解するべきであるのみならず、<証拠略>によると、昭和五六年五月二〇日加談会において、本山寺法廃止について同意する旨の議決があつたことが認められる。なお、控訴人大谷光紹は管長の承認も必要である旨主張するけれども、<証拠略>によると管長の承認を定めた昭和四一年七月一日条例第一四三号本山寺法は、前記認定の大谷管長招集により昭和五五年一一月開催された臨時宗議会において、右管長の承認を削除する一部改正が決議され、同年一二月八日条例第二三〇号として公布され、条例の公布は、管長が内局の上申により行う(旧宗憲一九条一号)こととされていることが認められるから、特段の事由がない限り、管長は右改正を承認していたものと推認され、また、<証拠略>によると、同年一一月一八日加談会においても、右本山寺法の一部改正について同意する旨の決議がなされていることが認められる。結局、本山寺法の廃止は有効であるというべきであり、控訴人大谷光紹の主張は採用できない。

(控訴人大谷光暢の主張について)

1  控訴人大谷光暢の昭和五六年五月開催の定期宗議会の議決、本山寺法廃止の効力に関する主張についての認定判断は、控訴人大谷光紹の同趣旨の主張について認定判断したとおりである。

2  さらに、同控訴人は、本山寺法が廃止されたとしても、新宗憲附則九項により、本願寺住職の地位を失わない旨主張するけれども、前記認定のとおり、旧宗憲七〇条の本願寺住職の規定は新宗憲上は削除され、また旧宗憲七〇条を受けて本願寺住職に関する規定を設けた本山寺法は、新宗憲によつて廃止されたものであるから、本願寺住職の地位は、新宗憲に抵触することが明らかである。したがつて、新宗憲附則九項を控訴人大谷光暢に適用することはできないというべきであり、同控訴人の右主張は採用できない。

六  すると、控訴人らは、参加人本願寺の住職の地位や住職後継者の地位を、旧規則変更前に喪失していたものであるから、本件処分の取消しを求める利益はない。仮に、旧規則上の住職に、法律上の地位が含まれていたとしても、右の地位は宗教上の住職の地位に依拠しているものと解せられ、控訴人大谷光暢は宗教上の住職の地位を失つたことにより、法律上の住職の地位をも失つたというべきである。したがつて、訴の利益に欠けることには変りがない。

六  同一三枚目表一行目の「五」を「七」と改める。

七  すると、右と同旨の原判決は相当で、本件各控訴は理由がないからいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 乾達彦 宮地英雄 馬渕勉)

〔参考〕第一審(京都地裁昭和五七年(行ウ)第三四号、(行ウ)第四〇号 昭和五九年二月九日判決)

主文

原告らの本件訴を却下する。

訴訟費用は、参加費用を含め原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 原告ら

被告が、昭和五七年三月一六日付で参加人に対してした宗教法人「本願寺」規則の変更の認証を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二 被告

(本案前の主張)

主文同旨の判決。

(本案について)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

との決決。

第二当事者の主張

一 当事者間に争いがない事実

(一) 宗教法人「本願寺」規則(昭和五七年三月一六日の改正前のもの・以下旧規則という)一四条には、次のように「住職」について規定されていた。

1 この寺院に住職一人を置く。

2 住職は、大谷派宗議会の議決した本山寺法の定めるところにより、就任する。

3 住職は、本山寺法及びこの規則に定める事項を行う。

(二) 真宗大谷派の本山である本願寺の本山寺法(昭和二七年七月一日条例第五〇条)は、住職に関し次の規定を設けていた。

第七条

1 本山本願寺の住職は、別に門跡ともいい、宗祖の系統に属する嫡出の男子が左の順序により継承する。

一 住職の長子

二 住職の長孫

以下省略

2 省略

3 省略

第八条

住職は、本派の僧侶の師範であつて、門徒の教化を指導し、本山の儀式及び行事を行う。

(三) 原告大谷光暢は、かつて旧規則上住職の地位にあり、原告大谷光紹は、原告大谷光暢の長子で、得度式を受けている。

(四) 真宗大谷派宗憲(昭和五六年六月一一日宗達第三号)附則六項は、前記本山寺法を廃止し、従前の法主であつた者を、門首とみなした(附則八項)。そして、門首について、次の規定を設けた。

第一五条

1 門首は、本派の僧侶及び門徒を代表して、真宗本廟の宗祖聖人真影の給仕並びに仏祖の崇敬に任ずる。

2 門首は、僧侶及び門徒の首位にあつて、同朋とともに真宗の教法を聞信する。

第一六条

門首の地位の継承は、宗会の議決した内事章範の定めるところによる。

そうして、真宗大谷派は、昭和五六年六月一一日、内事章範(条例公示第二号)を制定施行した。

(五) 原告大谷光紹は、真宗大谷派の別院東京本願寺の住職であつたが、東京本願寺は、昭和五六年六月一五日、真宗大谷派との包括関係を廃止して真宗大谷派から離脱した。

(六) 参加人は、宗教法人「本願寺」規則を改正し、被告に対してその認証を求めたところ、被告は、昭和五七年三月一六日、宗教法人法二六条に基づき、その認証をした(以下本件処分という)。その変更の内訳は、別紙一のとおりである。

原告らは、文部大臣に対し、それぞれ本件処分の取消しを求める審査請求をしたが、文部大臣は、昭和五七年八月一七日、審査請求を認めない裁決をした。

二 本件請求の原因

(一) (原告大谷光紹)

参加人がした規則変更には、(1)参加人の代表者が申請したものでないし、(2) 規則変更要件である(ア) 責任役員の同意 (イ) 加談会の議決 (ウ) 参与会の議決のいずれもが欠如している点で、重大な瑕疵があるから、本件処分は、取り消されるべきである。その詳細は、別紙二の一のとおりである。

(原告大谷光暢)

参加人がした規則変更は、(1) 宗教団体の不可欠の構成要素である宗教主宰者を置かず、(2) 規則変更の手続的要件たる加談会の適法な召集手続を欠く点で、重大な瑕疵があるから、本件処分は、取り消されるべきである。その詳細は、別紙二の二のとおりである。

(二) 原告大谷光紹は、参加人の住職後継者並びに法嗣であるから、参加人の住職に就任しうる権利があるし、同住職の代務者たる地位、権限がある。

原告大谷光暢は、参加人の住職の地位にある。

ところで、本件処分の対象となつた規則変更によつて、参加人の住職という地位が喪失されたため、原告大谷光暢は、住職でなくなり、同大谷光紹は、同住職に就任しうる権利及び代務者の地位を失ない、さらに、本山寺法の廃止にともない法嗣の地位に基づく法嗣費受給権などの権利を剥奪された。

(三) そこで、原告らは、自己の法律上保護された利益を回復するため、本件処分の取消しを求める。

三 本案前の主張の理由

原告らには、以下の理由によつて本件処分の取消しを求める法律上の利益を欠く。

(一) 参加人の在職の地位は、全く宗教上の地位であり、財産管理等の世俗的側面を規律する宗教法人法上の必須機関ではなかつた。したがつて、旧規則一四条が、住職の地位を宗教団体の内部規定である本山寺法に委ねても違法ではない。そして、本山寺法を改正して宗教上の地位であつた住職の地位を廃止しても、それは、宗教団体の自由にきめられる事柄である。旧規則一四条は、宗教上の地位である住職を前提として宗教法人上の一機関として一定の権限を与えていたが、宗教上の地位そのものが廃止されれば、旧規則上の機関たる住職も存在しなくなつたわけで、旧規則の住職についての規定そのものが改廃されたのではない。

ところで、本山寺法は、旧規則変更の認証以前に、真宗大谷派宗憲附則六項によつて廃止され、これに伴つて本山寺法で定められた住職の地位や住職後継者の地位が廃止され存在しなくなつていた。つまり、原告らの住職の地位や住職後継者の地位は、旧規則の変更によつて消滅したものではないということであり、この点で、原告らは、本件処分の取消しを求める利益がない。

(二) 原告大谷光紹は、東京本願寺の真宗大谷派からの離脱に伴い昭和五六年六月一五日真宗大谷派の僧籍を削除され、内事章範四条による継承審議会が、門主後継者(新門)を変更する旨決定した。したがつて、同原告は、新門でもなくなつた。そうすると、同原告は、この点でも本件処分の取消しを求める利益がない。

(三) 原告大谷光紹の住職後継者の地位は、単に将来参加人の住職となりうる事実上の可能性にすぎない。同原告の住職代務者の地位、権限及び法嗣の地位に基づく法嗣費受給権は、旧規則の定めるところではないから、これの変更によつてなんら変動をきたすものではない。

(四) 仮に原告大谷光暢は、旧規則の変更によつて住職の地位を喪失したとしても、それは、宗教上の地位のみの喪失であつて法律上の地位の喪失を含まないから、本件処分の取消しを求める原告適格がない。

四 本案前の主張の理由に対する原告らの反論

(一) 本山寺法は、宗派の内部規範にすぎず、本山寺法の改廃が直ちに旧規則の定めを左右するものではない。本山寺法の廃止によつて、旧規則の定める住職の地位が存在しなくなるとすると、内部規範の改廃によつて実質的に旧規則の改廃を認める結果となつて、規則の変更に所轄庁の認証を要件とする宗教法人法二六条に違反する。

旧規則は、住職の地位を定め、本山寺法は、その就任手続を定めていたのであるから、就任手続の廃止が、直ちに住職たる地位自体の消滅をきたすことのないことは、いうまでもない。

(二) 旧規則は、所轄庁の認証を要するものであり、真宗大谷派宗憲や本山寺法は、内部規範としてその下位にある。したがつて、両者に矛盾牴触が生じたときには、前者が上位規範として優先する。そうすると、本山寺法の廃止は無効である。

参加人の住職は、旧規則上、単に宗教上の地位だけではなく、加談、総代の任命権があり世俗的事項をも担当する機関である。したがつて、同住職の地位は、旧真宗大谷派宗憲七〇条、本山寺法に基礎を置いているのではなく、変更された旧規則一四条に根拠を置いているから、本山寺法の廃止によつて影響を受けず、旧規則の変更によつてはじめて住職の地位や住職後継者の地位が廃止されるのである。

一旦旧規則に記載されれば、任意的記載事項であつても、その変更手続は、宗教法人法、宗教法人規則の定めによらなければ変更できないところ、住職の地位は、旧規則で定められていたのであるから、本山寺法で廃止できる筈がない。

(三) 原告大谷光紹は、本山寺法の廃止の無効を主張し、かつ参加人を相手どつて住職後継者及び法嗣の地位確認請求訴訟を提起して係争中である(京都地方裁判所昭和五七年(ワ)第四二三号事件)。

(四) 本願寺住職は、血脈によつて承継されてきたもので、これは、慣習法である。原告大谷光紹は、次期住職に就任する法律上の地位にあり、これは、単なる事実上のものではない。

(五) 僧籍削除は、僧侶条例によるが、僧侶条例は、参加人以外の一般末寺を対象とするもので、原告大谷光紹のような本山の住職後継者及び法嗣は、対象とならない。そして、内事章範は、旧規則に適合しない限りで無効である。

五 被告の本案に対する認否

別紙三の一、二のとおり。

第三証拠関係<略>

理由

一 原告大谷光暢は、旧規則(<証拠略>)一四条の定める住職、真宗大谷派宗憲(昭和二一年九月二四日宗達第一〇号・以下旧宗憲という)一一条の法主、一五条の管長の各地位にあつたところ、真宗大谷派宗憲(昭和五六年六月一一日宗達第三号・以下新宗憲という)の施行により、同原告は、真宗大谷派の門首(新宗憲一五条)に就任したものとみなされた。

旧宗憲(<証拠略>)及び新宗憲(<証拠略>)がいずれも、真宗大谷派の宗教活動に関する最高規則であることは、これらを通読して明白である。したがつて、法主又は門首の地位が、全く宗教上の地位にとどまることは、いうまでもない。そして、このことは、真宗大谷派が、その世俗的側面に関して別に宗教法人「真宗大谷派」規則(<証拠略>)を定めながらこの規則の中には、法主又は門首のことは一切ふれていないことからも裏付けられるのである。

二 さて、旧規則の住職の地位が、宗教上の地位であることはいうまでもないが、原告らは、更に世俗的な法人の機関としての地位をも併有していたと主張しているので判断する。

旧規則七条は、参加人の代表役員に、「大谷派の宗務総長の職にある者をもつて充てる」ことにしており、住職を充てていないし、参加人の責任役員の中に住職は入つていない。責任役員の選任に住職が関与しないことは、いうまでもない。これを、旧規則改正前の規則(<証拠略>)七条が代表役員を住職で充てていたことと対比したとき、旧規則は、住職を宗教上の地位とし、世俗的事項は、すべて代表役員である大谷派の宗務総長や責任役員にその運営をまかせ、いわゆる政教分離の方針を打ち出してこれを実行に移したとみるのが、右旧規則改正の内容や前述した宗教法人「真宗大谷派」規則の内容、新宗憲改正の経緯に合致した見方であるといえるのである。

原告らは、旧規則には、加談、総代の任命権があることを挙げているが、この任命権は、いずれも宗務総長の推挙した者を任命するといつた形式的なものにすぎず、加談会の職務権限(一七条)は、住職の諮問した事項について審議するだけで、加談会に、世俗的事項について独自の権限が付与されているわけではない。総代の職務権限に至つては、全く取るに足らないものである(別紙一の二〇条)。したがつて、加談や総代の任命権があることから、旧規則が、住職に世俗的事項についても権限を付与していたとするわけにはいかない。

三 このようにみてくると、旧規則の住職の地位は、宗教上の地位にとどまるといわなければならないから、新宗憲において旧宗憲七〇条の住職の規定を廃止し、新宗憲附則六項によつて、住職の地位等を定めた本山寺法を廃止することも、真宗大谷派及び参加人の宗教上の自由に属する。

原告らは、これが旧規則の実質上の改正であり、宗教法人法に違反すると主張しているが、旧規則の住職の規定は宗教上の地位を定めたにすぎないものと解する以上、同法に違反する理はない。

原告らは、旧規則が、上位規範として新宗憲や本山寺法に優先すると主張しているが、旧規則と新宗憲や本山寺法が、上下の関係にあるわけではなく、後者は、住職に関する宗教上の定めをしたにすぎない。

四 原告らは、旧規則一四条二項が、住職就任手続を本山寺法にまかせただけであると主張しているが、もともと住職は宗教上の地位であるから、住職に関する事項を旧規則が本山寺法にゆだねることは、別段差し支えないし、旧規則一四条二項の趣旨を就任手続だけに限定して読むわけにはいかない。したがつて、本山寺法が住職に関することを細かく定めるのは、むしろ当然のことである。

そうして、この宗教上の地位である住職に関することを定めた旧宗憲七〇条及び本山寺法が、昭和五六年六月一一日新宗憲及び同附則六項によつて廃止されたのであるから、これによつて、原告大谷光暢は参加人の住職の地位を、原告大谷光紹は参加人の住職後継者の地位を、それぞれ既に失なつていたとしなければならない。

原告らは、旧規則の変更によつてその地位を失なつたと主張しているが、そうでないことは、既に明らかである。そうすると、原告らは、まず前述した新宗憲及び同附則六項を争つてまだ住職の地位にあり又は住職の後継者の地位にあることを争うことが必要になるが、しかし、住職は、旧規則への改正によつて、既に宗教上の地位にすぎなくなつたのであるから、提訴しても訴の利益を欠くことになる(最判昭和五五年一月一一日民集三四巻一号一頁参照)。

五 そのうえ、原告大谷光紹は、東京本願寺住職として、その包括団体である真宗大谷派から離脱したため、真宗大谷派の僧籍から削除されたのである(<証拠略>によつて認める)。そうすると、同原告は、真宗大谷派の僧侶ではなく、既に真宗大谷派とは無縁の者であるから、参加人の住職には、勿論のこと門首にもなりうるはずもないわけで、そのような同原告が、本件処分の取消しを求める利益は、全くないといわなければならない。僧侶条例に関する同原告の主張は、同原告の独自の見解であるから採用しない。

六 むすび

原告らには、本件処分の取消しを求めるについて、なんらの法律上の利益がないから、本件訴を不適法として却下し、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 古崎慶長 小田耕治 西田眞基)

別紙一

宗教法人「本願寺」規則変更対照表

条文(表題) 昭55・12・8以前 昭55・12・9以後(旧規則という) 昭57・3・16以後

第1条(名称) 略 変更なし 変更あり(略)

第4条(目的) 略 変更なし 変更あり(略)

第5条(大谷本廟) 略 変更なし 変更あり(略)

第7条(代表役員) 代表役員は、この寺院の住職の職にある者をもつて充てる 代表役員は、大谷派の宗務総長の職にある者をもつて充てる 変更なし

この寺院に住職一人を置く 削除

(14条1項、新設)

2項 住職は、大谷派宗議会の議決した本山寺法の定めるところにより就任する 変更なし(但し、14条2項に移動) 削除

住職は、本山寺法及びこの規則に定める事項を行う 削除

(14条3項、新設)

第8条(責任役員) この法人には、七人の責任役員を置く 「7人」を「6人」と変更 変更なし

2項 略 代表役員以外の責任役員は大谷派の参務の職にある者をもつて充てる 変更なし

3項~5項 略 変更あり(略) 変更なし

第14条(寺務の機関) 略 変更あり(略) 変更あり(略)

第15条(加談会の組織等) 加談会は、加談15人以内で組織する 変更なし 削除

2項 加談は、宗務総長の推挙した教師及び門徒について、住職が任命する 変更なし 削除

3項 加談の任期は3年とする但し、再任を妨げない 変更なし 削除

4項 補欠者の任期は、前任者の残任期間とする 変更なし 削除

第17条(職務権限) 加談会は、住職の諮問した事項について、審議する 変更なし 削除

2項 加談会は、この寺院の重要な事項について、住職に意見を述べることができる 変更なし 削除

第18条(招集) 加談会は、住職の命を受けて宗務総長が招集する 変更なし 削除

第19条(総代の員数等) この寺院には、5人の総代を置く 変更なし 削除

2項 総代は、門徒のうちから宗務総長の推挙した者について住職が任命する 変更なし 削除

3項 略 変更なし 削除

4項 略 変更なし 削除

第20条(総代の職務権限) 総代は、責任役員に協力して、この寺院の興隆に努めなければならない 変更なし 削除

2項 総代は、この寺院の業務について、勧告及び助言をすることができる 変更なし 削除

第21条(欠格) 略 変更なし 削除

第22条~第41条(財務) 略 変更なし 「門徒評議員会」を「参議会」、「常務員会」を「常務会」と変更

総代に関する文言を削除

第42条(規則変更手続) 略 「管長の承認」の文言を削除 「総代の定数の全員並びに加談会の同意を得」の文言及び「第3章及び」以下の文言を削除

第43条(合併手続) 略 変更なし 変更あり(略)

第44条(効力) 宗憲・宗教法人「真宗大谷派」規則及び本山寺法中、この法人に関係がある事項は、この法人についてもその効力を有する 変更なし 「本山寺法」を「大谷派の規程たる真宗本廟条例」と変更

別紙二の一〔原告大谷光紹の主張〕

(2) 重大な瑕疵の生ずる経緯

〈1〉 昭和五五年六月四日、京都地方裁判所において同月六日からの真宗大谷派宗議会開催禁止の仮処分決定(昭和五五年ヨ第三四〇号)がなされた。

〈2〉 しかるに真宗大谷派は、右仮処分決定に違反して同月六日から宗議会を開催し、五辻実誠が宗務総長に推挙された。

〈3〉 その後の同年一一月上旬、真宗大谷派管長は五辻実誠を宗務総長に任命し、前記仮処分違反の宗議会の推挙等を瑕疵なきものとして有効であることを承認した。

〈4〉 しかして前記管長は、同月一九日開催の宗議会の臨時会を招集し、宗議会は前記管長の前記承認行為を宗議会としても承認決議をなし、もつて前記仮処分違反の宗議会のなした議決を承認する旨の議決をなした。

また、このころ本願寺において、本願寺の代表者は、宗務総長の職にある者をもつてあてる旨規則が変更されたものとし、五辻実誠が宗務総長であり、代表者であるとして、この旨登記がなされた。

(3) 重大な瑕疵であることの説明

〈1〉 前記(2)の〈2〉の仮処分違反の宗議会での五辻実誠を宗務総長に推挙した旨の決議は、仮処分決定に違反したものであるから無効であることは明白である。

しからば、五辻実誠が宗務総長でないこと及び宗務総長は存在しなかつたことが明白である。

〈2〉 次いで前記(2)の〈3〉の管長の、五辻実誠を宗務総長に任命すること自体無意味なものである。

けだし、宗務総長ではない五辻実誠を、管長の任命行為のみで、宗務総長に就かせることは不可能であるからである。

〈3〉 また前記(2)の〈3〉の管長のなした、仮処分違反宗議会の推挙等を瑕疵なきものと承認する行為によつても、仮処分違反宗議会の瑕疵は治癒されるものでない。けだし、仮処分決定は対世的効力を有するからである。

従つて、この時点においても宗務総長は存在しない。

〈4〉 さらに前記(2)の〈4〉の宗議会の臨時会は、適法に招集されたものでない。けだし、管長は内局の補佐と同意によつて宗議会を招集するものであつて、これは達令によることを要し、この達令には宗教総長及び参務の副署を必要とする(宗憲第一九条)。しかして、内局は宗務総長及び参務五人以内で組織されるものであり、かつ、参務は宗務総長がこれを選定する(宗憲第四三条)ものであるところ、この臨時会招集手続時には前述のとおり宗務総長は存していないからである。

従つて、参務も選定することが出来ず、参務も存在していない。ゆえに内局も存在しないことになる。

それゆえ、招集手続の要件である「内局の補佐と同意」及び「達令への宗務総長及び参務の副署」を欠くものである。

特に「内局の補佐と同意」については、内局を単に管長の諮問機関であると解することが出来ないことが宗憲全体の規定の趣旨からみて明らかであるから要件として極めて重大である。

宗憲第一九条の規定からは、宗議会招集手続行為は、いわば管長と内局の合同行為的なものであり、どちらが欠けても無効である。

従つて、この臨時会の招集手続は無効である。

〈5〉 また前記(2)の〈4〉の宗議会の議決は、前記のとおり承認決議のみであり、五辻実誠を宗務総長に推挙する旨の議決は存しない。

仮に、承認決議にはその旨の決議も含まれるとの拡大ないし類推解釈がなされるとしても宗務総長の推挙は、他の議案に先立つて行なわなければならない(宗憲第三〇条二項)ものであり、個別かつ優先してなさねばならず他の議案と一括議決は違法なものである。

さらに加うるに、前記(2)の〈4〉の宗議会は宗憲第二四条の臨時会である。この臨時会での議事は、宗務総長の提案した事項に限られるところ、前述のとおり、宗務総長は誰も適法な推挙を受けておらず不存在であり、宗議会への適法有効な提案権者は存在しない以上、適法な提案もなく、宗議会がこの臨時会においていかなる決議をなそうとも、それは無効不存在である。

よつて、招集手続、宗議会の議決共に不存在であり、この臨時会終了時においても宗務総長は存在しない。

〈6〉 宗務総長が不存在では、以後いかに手続を進めても、それは全く不適法であり、かかる瑕疵が治癒されない限り、永久に宗務総長は存在しないものである。

〈7〉 なお、真宗大谷派宗議会議長も宗務総長と同様の方法により選出されたものであり、宗務総長と同じく不存在である。

(4) 本願寺代表者の申請行為でないこと

〈1〉 本件規則変更認証申請は、五辻実誠が真宗大谷派宗務総長であるから、本願寺代表者としてなしている。

〈2〉 しかし、前述の如く、五辻実誠は宗務総長でなく、従つて本願寺代表者ではないから、本願寺の京都府に対する本件規則変更認証申請は無効不存在である。

従つて、京都府知事の本件認証は不適法である。

(5) 規則変更要件の欠如

〈1〉 本願寺の規則変更は、責任役員全員並びに加談会の同意、及び参与会の議決を要する(本願寺規則第四二条)。

〈2〉 責任役員とは、真宗大谷派の宗務総長及び参務をいう(同視則第七、八条)。

〈3〉 真宗大谷派の参務とは、宗務総長が選定するものをいう(真宗大谷派規則第一三条)。

〈4〉 加談会は、宗務総長の推挙した教師等により構成され、住職の命により宗務総長が招集する(本願寺規則第一六、一八条)。

〈5〉 参与会は宗議会議長らにより構成される(真宗大谷派規則第一六条)。

〈6〉 しかし、真宗大谷派には前述の如く宗務総長は存在しないから、同人が選定する参務も存在しない。

従つて、責任役員が存在しておらず、本件規則変更認証申請は、規則変更の要件である責任役員の同意を欠如するものである。

〈7〉 又、加談会も前述の如く、宗務総長が存在しない以上、適法に招集されていないし、加えて、宗務総長と称する五辻実誠が住職の命なくして招集したものであるから、本願寺規則第一八条に違反し、この加談会の招集手続には重大な瑕疵があり、該加談会の同意は無効である。

従つて、本件規則変更認証申請は、その要件である加談会の同意をも欠如するものである。

〈8〉 参与会についても、前述の如く、宗議会議長らが不存在では適法に構成されたことにならず、結局、参与会の議決も無効である。

ゆえに、参与会の議決も存在しないことになり、本件規則変更認証申請は、この点でもその要件を欠如するものである。

別紙二の二〔原告大谷光暢の主張〕

(一) 内容における違法

1 宗教法人法によつて法人格を与えられるのは、宗教団体に限られるが(同法一条一項)、本件「本願寺」規則変更により、宗教法人「本願寺」は宗教団体としての実質を喪失することとなるので、そもそもこの規則変更は許されるべきものではない。

2 宗教団体とは、宗教法人法二条において、

(ア) 宗教の教義の宣布

(イ) 儀式行事の執行

(ウ) 信者の教化育成

の三点を目的とする団体と規定されている。ところでこれらの行為を実質的になし得るのは、宗教主宰者(聖職者)であるから、宗教団体はまた「宗教主宰者によつて宗教的行為をなすところの集団」と言い得るものであり、従つてこのような宗教主宰者、即ち人的要素が宗教団体の不可欠の構成要素である。

3 本件変更後の「本願寺」規則(以下単にこれを新規則といい、変更前の「本願寺」規則を旧規則という)においては、旧規則第四節第一四条に規定していた住職に関する規定を削除し、今後「本願寺」には住職乃至これに類する宗教主宰者を置かないこととしている。とすれば宗教団体に不可欠の人的要素を欠くに至つた「本願寺」は、最早宗教団体とは言い難い。

4 右のように従来宗教団体であつたものを、宗教団体以外のものにするような規則変更は宗教法人法の趣旨に反し、許すべからざるものであるから、この規則変更を認証した本件処分には瑕疵がある。

(二) 手続における違法

1 旧規則四二条は、「本願寺」の規則変更手続につき「この規則を変更しようとするときは、責任役員及び総代の定数の全員並びに加談会の同意を得、参与会の議決を経て、京都府知事の認証を受けなければならない」と定めているところ、本件規則変更にあたつては加談会が開催され、且つ規則変更につき同意する旨の決議がなされているが、その召集手続に瑕疵がある。

2 即ち、旧規則一七条一項は、「加談会は、住職の諮問した事項について審議する」と定め、同一八条は、「加談会は住職の命を受けて宗務総長が招集する」と定めているところ、本願寺住職である原告は、本件規則変更の可否について加談会に諮問したこともなければそれを議題とする加談会の招集を宗務総長に命じたこともない。

3 従つて宗務総長が住職である原告の命を受けることなく、ほしいままに招集し、開催した加談会は、旧規則一七条一項、一八条に違反し無効であるから、このような無効の加談会の議決に基く本件「本願寺」規則変更は、旧規則四二条に違反している。

別紙三の一〔原告大谷光紹の主張に対する認否〕

(一) 原告が「(2)、重大なる瑕疵の生ずる経緯」として主張する〈1〉ないし〈4〉の各事実はこれを認める。

(二) しかし原告が「(3)、重大な瑕疵であることの説明」として主張する〈1〉ないし〈7〉の法律上の主張はすべてこれを争う。

すなわち原告が前述の「(2)、重大な瑕疵の生ずる経緯」の〈8〉及び〈4〉で主張する管長の承認及び宗議会の議決は法律上有効であるから、右各議決が法律上無効であるとする主張並にこの法律上の主張を前提とするその余の法律上の主張はすべて失当である。

(三) 「原告が「(4)、本願寺代表者の申請行為でないこと」として主張するところの内、

(1) 本件規則変更認証申請は、真宗大谷派総長である五辻実誠が本願寺代表者としてなしている事実はこれを認める。

(2) それ故、原告の、右申請が無効・不存在であり従つて被告がした本件認証が不適法であるとの法律上の主張は正当でない。

(四) 原告が「(5)、規則変更要件の欠如」として主張するところは〈1〉ないし〈5〉を認め、〈6〉ないし〈8〉は争う。

(1) すなわち前述の「管長の承認」及び「宗議会の議決」(原告主張の(2)の〈3〉及び〈4〉)が有効であるから、その無効を主張し、その主張を前提とする原告のここでの〈6〉ないし〈8〉の主張はいずれもその理由がない。

(2) よつて本件規則変更が、その規則変更の要件である責任役員及び加談会の同意並びに参与会の議決を欠くとする原告の主張は失当である。

別紙三の二〔原告大谷光暢の主張に対する認否〕

(一)の主張は争う。

1 本件規則変更により原告のいう旧規則第四節第一四条の規定が削除されたことによつて宗教法人本願寺の宗教主宰者の存在が否定されるとか宗教主宰者を置かないことになつたとかの原告の主張はこれを争う。

2 したがつて旧規則第四節第一四条の規定の削除によつて宗教法人本願寺が宗教法人法第二条に該当する宗教団体ではないことになつたとの原告の主張はこれを争う。

3 なお宗教法人本願寺に「住職一名を置く」と定めていた旧規則第四節第一四条が削除されたのは、昭和五六年六月一一日附で施行せられた宗憲附則による本山寺法が廃止されたことによつて、右本山寺法を根拠にする旧規則一四条の規定がその存在意義を喪うに至つたため、関連規則の整合上これを削除するのが適当であつたことによるものと理解される。

(二)の主張はこれを争う。

本願寺規則の変更につき同意を得るために宗務総長が招集した加談会の開催については、住職である原告の命を受けていなかつたが、次のいずれかの理由により加談会の開催については宗務総長の招集だけで足り、住職の命を受けることは必要なかつたものと認められるので、何ら規則の変更手続には違法は存しない。

1 昭和五五年一二月八日にその変更につき被告知事の認証を受けた宗教法人本願寺規則によれば、同寺院の「代表役員は、大谷派の宗務総長の職にある者をもつて充てる。」ことと定められ、爾後宗派の宗務総長ではない原告が同寺院の住職であることを根拠に同寺院を代表する代表役員の地位に存ることは廃絶せられ、寺院規則の変更等法律的行為については、何らの対処もなし得ないこととなつた結果、規則変更についての加談会の開催については、代表役員たる宗務総長の招集だけで足り、住職の命を受けることは必要ではなくなつたと考えられる。

2 既述のとおり、昭和五六年六月一一日公布施行された真宗大谷派宗憲(宗達第三号)附則第六項によつて本山寺法が廃止された結果、本願寺規則が定める住職の地位も既に存在しなくなつたのであるから、加談会の開催についても、当然住職の命を受ける必要はなくなつたと考えられる。

仮に、依然として住職の命を受けて加談会を開催する必要があつたとしても、前記のとおり住職が代表役員としての地位を失い、代表役員たる宗務総長が加談会の招集をしていること、本山寺法の廃止により宗教規範上及び宗教的業務のうえでは住職が既に存在しなくなつた事実、原告は本件規則変更手続を履践するため本願寺の代表役員から加談会招集の命を受けたい旨申出てもこれに応じなかつた事実などからして、加談会の開催につき住職の命を受けなかつたことは軽微な瑕疵というべく、本件規則の変更の認証を違法として取消し得べき理由とはならない。

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